紀行

上田紬〜染織家 小山憲市・まつや染織工房を訪ねて〜

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2022年12月某日。


過去5年間にわたり、私ども荒井呉服店で個展を開催頂いている上田紬染織家 小山憲市氏の工房「まつや染織」へ伺いました。



八王子から車で2時間半。日本で一番長い川「信濃川=千曲川」が流れる長野県上田市は、古くから養蚕製糸業が盛んな地域として、また林檎・葡萄・胡桃の産地としても知られており、国内で唯一「繊維学部」がある国立信州大学も所在しており、繊維産業が根づいた街でもあります。

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「土地の自然と風土へのこだわり」


糸にこだわり、色にこだわり創られる小山氏の染織品には、信州上田の自然と風土が紡がれています。

今回、工房では新たに取り組まれている草木染や氏がこだわっている糸の話を伺いながら、制作工程を案内頂きました。



<生糸・玉糸など国産の絹糸もその種類は多彩>

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現在取り掛かっている「桜」を使った草木染。

原料となる桜は上田城下の公園から剪定されたものを使用しており、ここにも土地の風土が宿る。(自治体より許可を頂いて使用しています)



<色素を煮出す為にチップ状にした桜の枝>

煮出した色素は透き通るような褐色。ここに糸を浸して染色する。温度や浸染する回数によって染まる濃度に変化が生じるが、これまでの染色の経験と感覚を頼りに思い描く濃度に染め上げる。


<一度めの浸染>


<思い描く色に近付けるべく、幾度も浸す>



<浸染を繰り返す>

浸染を終えた後、金属成分を用いて焙煎をする。草木染だけでは色素は落ちてしまう為、この工程で金属成分と草木の色素を結合させて糸に色を定着させる。今回は「銅」を使って焙煎。


<銅の粉末>




<銅の粉末をぬるま湯に溶かし、草木染めをした糸を浸す>



<銅と結合し、褐色に”くすみ”が加わる>




<糸から水分が抜けると明るい発色に変化>


草木染め、焙煎、そして乾燥と工程毎にまた取り掛かる季節によって異なる糸の色彩変化を見越していく事も、これまでの経験値を頼りに行うと小山氏は語ります。


「同じものは作らない」


移ろう季節と同様に、自らの感覚、そして着る人の感性も時と共に変化を続けるという考えから、小山氏は基本的に同じものを作ることはありません。その為、あえて染料のレシピを作らずに染色に取り組んでいます。

小山憲市工房見学15

「糸の表情も柄のひとつ」


染色を終えた糸は織機にかける為に「整経」の工程へ。

「整経」とは糸が織柄を成すように長さ等を整える作業で、柄・布地の表情を決める非常に重要な工程です。こだわった糸選びも糸の染色も、全てこの工程によって命が吹き込まれると言っても過言ではありません。

先染の布地は色や質感が最大の魅力。「糸の表情も柄のひとつ」と語る小山氏が染色と同様に深いこだわりを見せる工程が「整経」です。




<整経の為に並べられた色とりどりの糸>




<繰り機で整えられる糸①>




<繰り機で整えられる糸②>




<静かな工房の中を織機の音がテンポ良く鳴り響く>



遠目では単色に見える布地も実は多色の糸で織り成されており、そこに色の奥行きが生まれます。小山作品の繊細な糸使い、色使いの秘密を今回見学させて頂いた「制作工程」から窺うことが出来ました。




<経糸の色彩と配列①>




<経糸の色彩と配列②>


今回は制作工程の見学が目的だった為、完成品を見ることはありませんでしたが、2023年2月に予定している当店で開催を予定している氏の個展では、今取り掛かっている作品を幾つかご紹介させて頂きます。乞うご期待下さい。




<「茜」で染めた小山氏の作品を纏う店主>




上田紬 染織家:小山憲市氏


<小山憲市 略歴>

1957年  長野県上田市生まれ
1991年  全日本新人染織展京都商工会議所会頭賞
1991年  全日本新人染織展大賞 文部大臣奨励賞
1993年  長野県染織作家展県知事賞
1994年  第一美術展新人賞

など、受賞歴多数。
深いこだわりにより洗練された感性から織り上げられる「紬」は唯一無二。



photo&text Ryusuke Ishige


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