お薦めの逸品
時を経て より煌めく魅力 〜 手描き京友禅振袖 vol.1
色合いや柄構図、古典柄やモダン柄など時代を反映するかのように様々なトレンドが存在する着物「振袖」。
時代の変化と共に染色方法も進化を続け、2023年現在で主流となっているのが「インクジェット染色」です。インクジェット染色とは、コンピューターで制作した柄構図をインクジェットプリンターを用いて生地に染め付ける染色方法。この染色技術の発達に伴い、これまで染め付けることが出来なかった色の染色が可能となり、人員や手間をはじめ染色に関わる全てのコストを抑える事に成功し、それがお客様への提供価格を30年前の約70%程度(2023年時点でフルセット購入の場合の平均価格35万円)まで抑える事にも繋がっています。
そうした最新の染色技術もあれば江戸の昔から脈々と受け継がれ今日に伝わる伝統技法も存在します。その代表格が「友禅染」。時は徳川五代将軍吉綱が時代(1680年〜1709年)。世に伝わる元禄時代に京都で活躍した扇絵師「宮崎友禅斎」が完成させたとされる友禅染は時を経て日本各地に広がり「京友禅」「加賀友禅」「東京友禅」として継承され現在に至っています。
地域の風土と文化が色濃く反映された友禅染には様々な作風があり、それぞれに魅力があります。
今回はそうした友禅染の中から「京友禅」を特集し皆様にご紹介します。
題して、〜時を経て より煌めく魅力「手描き京友禅」〜
私ども荒井呉服店が京都から厳選し取り揃えた珠玉の作品を帯のコーディネートと共にご覧下さい。
京友禅振袖「宝尽くし」
振袖:染の百趣 矢野 - 帯:西陣まいづる
フルセット価格:2,598,000円
京友禅で名を馳せる「染の百趣 矢野」謹製の手描き友禅振袖。矢野作品の特徴はもち米を用いた糸目友禅。柄の輪郭を模る防染糊の材料は様々あり、図案や表現したいタッチによって使い分けられています。もち米の防染糊で模った図案は柔らかな表情に仕上がるのが特徴ですが扱いが困難な為、熟練の職人のみが扱える防染糊でもあります。そして、そうした図案の仕上がりを支えているのが白生地です。使用している白生地は全て矢野オリジナルで、質感、染料、防染糊の浸透度などを吟味し、矢野作品のに適したものを国内で織り上げ使用しています。
また何と言っても矢野作品の最大の魅力は図案。矢野は江戸期の雛形本(衣装図案の縮小図をとりまとめた見本帳)を多数所蔵し古典意匠の研究を続けており、古典の研究から現代に活きる意匠を日々模索しているその創作意欲が作品の洗練された図案に表れております。
・・・「西陣まいづる:瑞松絢彩文」と合わせて・・・
柄を引き立てる無地場の配置が実に巧妙な構図となっているこちらの振袖。地色となる淡い鴇色と帯とのコントラストで着姿を一層華やかに演出すべく選んだ帯がこの「瑞松絢彩文」です。地色の紫と鴇色は取り巻く柄の彩色と相まって絶妙なコントラストを生み出し互いを引き立て合います。金銀彩豊かな糸で豪華に織り上げた松と振袖に描かれた松との統一感も意識した取り合わせに。
<帯とのコントラスト>
<柄を模る金駒刺繍と雅な雰囲気の箔使い>
<染匠の感性が光る彩色>
<浮き立つ生地の地紋と美しいぼかし染め>
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京友禅振袖「松」
振袖:三代目 松井青々 - 帯:帯清
フルセット価格:1,578,000円
その独自の感性から生み出される作風で昭和期からの京友禅に新たな表現解釈を広げた友禅作家「松井青々」。本作は当代となる「三代目 松井青々」が手掛けた作品です。大胆な色調に無地場が活かされた斬新な構図や色彩に目を惹かれますが、古典の美しさが見事に表されているあたりに松井青々の高い感性と美意識を感じます。生地はしっとりと厚みのある縮緬地。地染めには三代目作品の代名詞と言える「蝋叩き染」が施されています。蝋叩き染とは筆や刷毛に防染糊の役割を果たす溶けた蝋を含ませ、生地に散らせる染色技法。蝋が付着した部分は防染される為、まばらな染模様となるが本作は幾重にも地色を重ねた上に蝋叩き染を施しており、まばら模様が遠目には無地に見える程うっすらと浮かび上がる仕上がりとなっています。また金彩も多用されており京友禅の特徴とも言える豪華さ、煌びやかさも実に見事。
・・・「帯清:彩雪輪」と合わせて・・・
合わせた帯は振袖同様に無地場を広く取った柄構図の「彩雪輪」。今回は無地場を活かし柄を映えさせるという工夫が凝らされた意匠同士を組み合わせる事で着姿全体をまとめ上げる事を提案します。帯は帯清独自の佐賀錦で表情がとても豊か。振袖の蝋叩き染と相まって、色柄だけでなく素材質感の華やかさも着姿を彩る要素として意識しました。
<振袖と帯の無地場のバランス>
<独自の感性で展開される柄構図>
<染の上で煌めく箔の細やかな彩り>
<振り内の大胆な配色>
<蝋叩き染による染め模様>
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京友禅振袖「雲取りに御所車」
振袖:久保耕 - 帯:梅垣織物
フルセット価格:1,598,000円
「久保耕」は振袖の制作を得意としている老舗染匠。その作風は"正統派"と表現するのが相応しい純然たる古典文様が主となっています。本作は京友禅で描かれる事が多い古典文様の代表格「御所車」を上前に配し、四季折々の草花文様を散りばめ、振袖全体を桶絞りで表した「雲取文様」で彩った柄構図となっています。友禅、刺繍、金彩、絞り。京友禅は友禅染だけでなく様々な染装飾技法が用いられるのも特徴で、この彩りの豪華さが京都の公家文化に古くから育まれた「雅」であると私どもは捉えています。桶絞りによる紅白のコントラスト。友禅と金彩で表された観世水をはじめとする優美な水文。柄一つ一つに挿された彩色も見事な美しさの振袖です。
・・・「梅垣織物:竹垣梅花文」と合わせて・・・
数ある西陣織の機屋の中で久保耕の振袖にと提案させて頂く事が多い「梅垣織物」の帯。久保耕同様に正統派の意匠を得意としており、その妥協のない制作姿勢で格調の高い作品を手掛けています。作名にある通り竹垣に梅花を重ねた上品な意匠が振袖の雰囲気と実に良い相性。染織品が醸し出す雰囲気は意匠だけでなく、それを支える糸や染料など「素材」へのこだわりと、それを形にする「技術」の高さが欠かせないものであると示してくれる実に見事な作品です。
<振袖と帯の柄の雰囲気、色彩、全てにおいて相性の良い組み合わせ>
<紅白のコントラストに映える萌黄の松>
<桶絞りによる大胆な染め模様>
<金駒刺繍が演出する程よい豪華さ>
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京友禅振袖「松に貝桶」
振袖:吉川染匠 - 帯:となみ織物
フルセット価格:1,508,000円
器物文様には格調の高さ。草花文様には気力を感じる伸びやかさ。その両方の要素が見事に表現されているのが吉川染匠の作風と言えます。本作もその例に漏れず吉川染匠独自の世界観が広がっており、無地場の取り方で柄を活かし、ぼかし染めで優美な彩りを加えられた大胆な構図も実に秀逸。友禅もさる事ながらぼかし染めにおいても高い技術を有する事でこうした描写を可能にしていますが、そうした部分に技術の継承に対する強いこだわりを感じる吉川染匠の仕事。彩色に関しても、松に挿された白と赤は特に美しく吉川染匠が強く意識する「華やぎ」と「品格」が見事に表れた振袖に仕上がっています。
・・・「となみ織物:宝寿」と合わせて・・・
絹糸の艶やかさを活かした織文様が特徴の「となみ織物」の作品。瑞々しい瓶覗を地色の主体とする振袖に対して、メリハリの効いた色調の帯を合わせる事でコーディネートを上品で凛とした印象に引き締めています。水色系の振袖には黒など濃地の帯を合わせるのが定石とされていますが、当店では色の濃さだけでなく「柄の強さ・存在感」がコーディネートをまとめ上がる為の重要な要素である事を意識しています。大きく織り描いた亀甲文様の直線的な意匠は存在感も一入です。
<意匠と色調で作るコントラスト>
<無地場の見せ方が秀逸な柄構図>
<赤と白の美しさが際立つ「松」>
<糸目が表現する柄の品格>
<幹の力強さが溢れる描写>
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京友禅振袖「雪輪に貝桶」
振袖:久保耕 - 帯:河合美術織物
フルセット価格:1,587,000円
眩いばかりの地色が一際目を惹く一枚。上前には「貝桶」「雪輪」を重ね描き、振袖全体に雲取り文様をぼかし染めを用いて表現。滝文様に松桜そして四季折々の草花文様を配したその柄構図はまるで雅な日本庭園を散策しているかの様です。こうした優美な意匠は京友禅ならではのもので、正統派「久保耕」の作風が見事に表現された仕上がりとなっています。柄を模る金駒刺繍や各所を彩る金彩も実に細やかで、職人の確かな技術が伺えますが、本作において特筆すべきは熟慮を重ね完成させたであろうその構図と彩色。着姿の美しさは構図で決まり、さらにその構図は彩色によって活かされます。良い振袖(着物)は意匠を生み出す感性や染織技術の高さだけでは作る事は出来ませんが、本作は「着る方への想い」が確かに詰め込まれ完成した逸品でございます。
・・・「河合美術織物:双寿綾菱文」と合わせて・・・
雲文や水文など形が定まらぬ自然描写を主体とした振袖に対し、合わせた帯の柄は有職文様の代表格「菱文」。河合美術織物ならではの大胆かつ豪華な糸使いで織り上げられたその表情は特選に位置付けられる着物の上で揺るぎない存在感を放ちます。今回は振袖の曲線と帯の直線の意匠によるコントラストを強調したコーディネートに。
<曲線と直線のコントラスト>
<上品かつ煌びやかな金駒刺繍の彩り>
<彩色が表現する品格>
<ぼかしと金彩の雅>
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荒井呉服店がご案内する京友禅特集〜時を経て より煌めく「手描き京友禅」〜。今回は当店が保有している中から5柄にスポットを当ててご覧頂きました。
最後に「貝桶」「御所車」「松竹梅」「宝尽くし」「吉祥草花文様」など様々な着物に描かれる定番の古典文様について余談を添えさせて頂きます。
今回ご紹介した振袖に描かれているそれら定番文様はどれも作家や染匠の独創性に富んだ描写のものでございます。こうした「独自の描写」を生み出すことが如何に大変で感性が必要な事か、それが着物の魅力としてどれだけ重要な要素となっているかが、様々な着物を扱い見て比べていると判断がつくようになってまいります。
辞書によると「意匠」とは、
①工夫をめぐらす事。趣向。
②(美術品・工芸品などで)物品の外観を美しくする為、その形、模様、色、配置などについて新しい工夫を凝らす事。その装飾的考案。デザイン。
とございます。
作り手が様々な研究と熟考を重ね、お召しになる方への想いを馳せ、経験と研鑽を費やして考案された「意匠」には人の心を掴む魅力という力が宿るのでございます。
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<荒井呉服店の帯選びについて>
荒井呉服店では振袖と帯は二つで一つ。互いを彩り合う存在という考えから、提示している「フルセット価格」内でお客様にご満足頂ける「格の合う帯」をお選び頂けるよう品揃えご案内をしております。
なお、本特集でコーディネートをご提案している帯は全て「フルセット価格」でお選び頂ける帯となっております。
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<古典文様に対する想い>
古くは古代中国、そしてヨーロッパよりシルクロードを辿って日本に持ち込まれた様々な貿易品献上品にその意匠の源流がある「古典文様」は平安時代の貴族公家文化や室町時代からの武家文化を経て様々な変化を遂げ現代に伝わっています。一千年以上の長期にわたって育まれてきた伝統美はその普遍的な美しさで今も変わらぬ魅力を放ち、令和の世に生きる我々を魅了しています。この「古典文様と伝統美」はこれからさらに時を経て人々の感性や美意識に変化が生まれたとしても全てが消える事はないと思いますが、私ども荒井呉服店は「振袖・和装」という衣装を通して少しでも多くの人にこの意匠の魅力を伝えていきたいと考えています。
「二十歳のお祝い」という特別な節目に伝統美に包まれた日本の伝統衣装を身に纏う。十年、二十年、、、と時を経て記念の写真を見返した時に「節目の思い出」が変わらぬ魅力を放つものであってほしい。そうした想いを込めて荒井呉服店では「古典文様の振袖」にこだわり品揃えをしています。
Photo&Text - Ryusuke Ishige / Iwata
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<荒井呉服店の振袖サービス一覧>
・「ご購入振袖フルセット」プランのご提案
お召し頂く上で必要なお品物が全て揃った「フルセット」をご用意しております。
・「レンタル振袖フルセット」プランのご提案
お召し頂く上で必要なお品物が全て揃った「レンタルフルセット」をご用意しております。
・「お母様のお振袖お持ち込み」プランのご提案
袋帯、帯締め、帯揚げ、髪飾り、草履バッグ、足袋など、各種小物を取り揃えております。
お持ちのお振袖をお召し頂く上で必要な不足しているお品物がございましたらご用意ご提案をさせて頂きます。
・染み抜き、クリーニングのご相談
久々にお召し頂くお着物をすっきりと綺麗に。着物の染み抜き・お手入れ・クリーニングに関するご相談・無料見積もりを承っております。
・寸法直し、仕立て替えのご相談
お持ちのお振袖をお召しになられるお嬢様の寸法に合わせる「寸法直し」「仕立て替え」に関するご相談・無料見積もりを承っております。
その他、お支度でお困りの事やご不明な点がございましたら、お気軽にご相談下さい。
【振袖お支度プラン詳細】
*以下のリンクより、各プランの詳細をご確認頂けます。
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